NIH Guidelines on Human Stem Cell Research
3月に署名されたオバマ大統領による大統領命令を受けて、NIHのGuidelines on Human Stem Cell Researchが制定され、2009年7月7日から施行された。今後、ヒトES細胞を用いたプロジェクトでNIHの研究費を申請する場合、このガイドラインに沿っていることが必須となる。
要点は、
- 詳細に定められた統一手続き(インフォームド・コンセントの内容、倫理委員会の形式など)に沿うことで、生殖医療の余剰胚からのヒトES細胞株の新規樹立が可能に。
- その他の樹立方法(研究目的の受精、核移植、単為生殖など)は不可。
アメリカではブッシュ政権のもと2001年以降、NIHグラントによるヒトES細胞株の新規樹立が禁止されてきた。NIHグラントを得るには、2001年以前に樹立された21株のみが使用可能であった。しかしNew York Timesによると、この8年間、NIH以外の研究費を利用し、約700のヒトES細胞株が既に樹立されているとのこと。
4月に発表された今回のガイドラインの草稿が発表された時点では、この過去に樹立されたヒトES細胞株に対しても、ガイドラインで定められたのと全く同一の詳細な統一手続きを、過去に遡って適応することとなっていた。すなわち多くのヒトES細胞株でインフォームド・コンセントのやり直しなどが必要となってしまう。
これに対して科学者側から多数のパブリック・コメントが寄せられ()、最終案では、過去に樹立された細胞株に関しては、その樹立過程について個別に審査することに落ち着いた。一方7月7日以降に樹立される細胞株については例外は認められない。
もう一つパブリック・コメントを受けて追加された重要な点は、NIHに認定されたヒトES細胞株のレポジトリをつくるということ。これはまさにNIHがやるべきタスクだし、とても有意義なリソースになるだろう。
一方、余剰胚からの樹立以外の方法は認められなかった。これは疾患特異的ES細胞株の樹立・そのための技術の確立を極めて困難にするが、カリフォルニアのCIRMグラントなどが補完するであろう。
このガイドライン制定は新規樹立を行う研究者よりも、むしろ広く一般の医学・生物学系研究者に大きなインパクトを与えるであろう。研究リソースとしてヒトES細胞株は一気にcommodity化すると予想される。生物学は常にバラツキとの闘いなので、多くの種類のヒトES細胞株にアクセスできることになることは、極めて重要だ。もちろんES細胞があれば何でもできる、という訳では無いことを銘記しておかなければならないが。