マネーとインテリジェンスの結節点
新書への新規参入に当ってこの2冊を意図的に並べてきたとしたら、幻冬舎恐るべしである。
地球上に人為的に引かれた国境をスルリと越えて行き交う二つの無形の価値、「マネー」と「インテリジェンス」。その共通性故に2冊の間にはいくつもの結節点が浮かび上がってくる。その一つがバチカン。まず、橘玲「マネーロンダリング入門」。第四章の「世界でいちばん短いマネロンの歴史」だけで買う価値がある。その一節、
P2のネットワークを通じて中南米の軍事政権に強固な人脈を築いたジェッリは、麻薬資金を洗浄するために大規模なマネーロンダリング装置を必要としていた。それに最も好都合なのが、バチカン銀行であった。”主権国家“バチカンの内部には他国の捜査機関は指一本触れることができず、どれほど汚い金であっても、バチカン銀行を通せばきれいな金となって出てくるのだ。シンドナとカルビは、この資金洗浄装置を動かすために、バチカンに送り込まれたのである。
ではなぜ、バチカンはこのような犯罪行為に手を貸すことになったのだろう。その背景には、冷戦時代の世界情勢がある。当時、カトリック教会の最大の敵はマルクス・レーニン主義であり、バチカンのお膝元であるイタリアですら共産化の脅威に晒されていた。そのためバチカンは、マネーロンダリングで得た利益で反共組織や反共団体を秘密裏に支援していたのである。
「マネーロンダリング入門」 – p.153
一方、「国策捜査」の佐藤優と「ウルトラ・ダラー」の手嶋龍一の対談「インテリジェンス 武器なき戦争」。<TOKYOは魅惑のインテリジェンス都市>という一節。
手嶋 これだけ生活コストがかかる街にもかかわらず、これはという情報組織は一級の人材を送り込んできている。意外な、と思われるでしょうが、ヴァチカン市国は、隠れた情報大国です。近世の対日諜報報告は、古典に挙げられるほどの水準です。軍事力は皆無に等しいのですが、彼らが全世界に張り巡らしている聖職者のネットワークは、実に整ったものです。このインテリジェンス能力にはいまも侮りがたいものがある。
佐藤 ヴァチカンは怖いですよ。正式の外交関係がないにもかかわらず、モスクワでもすごい仕事をしてますし。
「インテリジェンス 武器なき戦争」 – p. 89
そういえばバチカンは、もう一つの国境を軽々と越える無形の価値「信仰」も握っていた。