立法府に十分なポストを用意すれば
経済財政諮問会議の民間メンバーから提言された「各省庁による公務員の再就職あっせんの禁止」に閣僚が反発したことを受けて、次のような意見が出ている。
「天下り先をちらつかせることにより官僚をこき使う」ことが、いかに間違ったインセンティブの与え方であるか、そして、それが決して日本の経済に、つまりは「国力」に悪影響を与えているか、まともな頭を持っていればどんな議員にも分かるはずだ。
私は、小泉政権時代は自民党の支持者だったが、この件で舵取りを間違えれば、次の選挙では自民党には票を投じない。
コンセプトには賛成だが、これまで自民党に票を投じていなかった有権者にとってはインセンティブがない。また閣僚と議員が混同されている。もう少し「天下り」の構造と官僚と議員の関係について考察が必要であろう。
一つ目は、キャリア制度の構造的問題。
官僚は、程度の差こそあれ、同期入省者はほぼ横並びに昇進していく。その過程でポストにあぶれたものが退職していく仕組みが早期勧奨退職制度(※)と呼ばれる。事務方のトップである事務次官は1名であるから、同期から事務次官(または次官級ポスト)が出た場合、その他の同期入省者は全て退職することになる。この仕組みの元では、60歳の定年を待たずに退職するものが多いため、その後の職業を用意するために必要とされる。
※早期勧奨退職は法律で決められたものではなく法定の制度ではない。官僚制の歴史の中で形成された慣習である。
内部競争によるピラミッド型組織を是とする限り、「天下りをなくせ」とだけ主張しても解決しない。
二つ目は、曖昧な三権分立の問題。
義務教育で習うように三権とは「立法権」「行政権」「司法権」を指し、国会が「立法権」を、内閣(すなわち閣僚)および官庁が「行政権」を担当すると説明されているが、実際には違う。
立法は国会の機能であるが、国会議員が自ら法案を起案することはほとんどない。法案のほとんどを占める内閣提出法案を官僚が作成するのはもちろん、議員立法も多くは官僚のサポートに依拠していると言われている。このように、官僚主導で法案を作成することについては、「自分たち(官僚)がやりやすいように、法律を作りがちになる」という批判がある。これらの批判は政治家から出されることも多いが、政治家が新法を起草せず、官僚に事実上丸投げする姿勢がそういった状況を生み出している側面もある。
法令(法律+政令)の起草技術は高度化しており、一つの法案を作成するために関連法令の調査から一字一句の吟味まで多大な労力が必要になっている。その為、単純に議員立法を増やせというわけにもいかず、扱いの難しい問題である。
成立法案でみると、政府立法が全体の85%程度を占める(1994-2004)
議員秘書問題が度々報じられるように、本来立法権を担う国会議員の周囲にはマンパワーが足りず、一方行政権を担当する官僚に立法のタスクが科せられている。今回反対したという閣僚は官僚の上司であるし、もともとは(そして今後も可能性としては)国会議員なので、国会議員にもインセンティブがないと「天下り」の制度改革はすすまない。
そこで、教科書通りの三権分立を実現するために、国会/国会議員の立法スタッフのポジションを大幅に拡充し、官僚に行政のピラミッドを登るか、立法の側に転ずるか、選択肢を用意すれば良いのではないだろうか。もちろん国会の立法スタッフは官僚の経験の有無を問わず広く募集する。 こうすれば国会議員も本来の職務「立法」で腕を振るえるというインセンティブがあるし、官庁もキャリア制度を維持できる。また本来の三権分立という「正しい結果」に向かうのであるから、納税者の理解も得られるであろう。いかがだろうか?
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Dec. 19 追記
その後、じわじわと議論が本質的になってきた。当初の「バトン」には批判的な意見もあったが、日本語でのブログ界も少しずつ成熟しているのではないだろうか。
実際のところ、天下りしたいと思っている官僚は少数でしょう。加えて、その中にも実際に自分たちが退職する頃には天下りがなくなっており、したいけどできないだろうと思っている人間は少なからずいることでしょう。したがって、現役中の給与引上げにせよ、年金や退職手当の引上げにせよ、定年までの雇用延長にせよ、何らかの代替措置が講じられるのであれば、ほとんどの官僚は天下り廃止に同意するのではないか、というのがwebmasterが職場での会話から得ている感触です‐多くの官僚は、天下りが望ましいことであるとは決して思ってはいないはずです。
公務員の人事慣行の中で1つ、民間とは大きくちがっている点がある。この点については、私がいくつか見渡した範囲内では、なぜか議論の「前提条件」となっていて、それ自体としては特に問題視されていないようだ。
それは、特にキャリア官僚に特徴的な、「定年前に『自主的』な退職」という慣行だ。キャリアだと、同期のうち定年まで勤められるのは1人だけで、そのほかは昇進の可能性がなくなった時点で辞めていったり出向したりする、というあれ。
キャリア公務員が年下の上司に仕えるのをよしとしないとした点について、「そんなことはない」とのことだが、ではなぜキャリア官僚の間で定年までにほとんどの人が辞めてしまう事実上の慣行があるのだろうか、と質問させていただきたい。
やはり問題の本質は、同期が昇進したら残りは去るというピラミッド型キャリア制度を今後も維持するべきなのか?という問いではないだろうか?それを維持するための「早期勧奨退職制度」であり、「早期勧奨退職制度」を円滑に進めるための「天下り」なのだから。少なくともここ数十年はトータルで見れば上手く機能していたと思われる(もちろん欠点・弊害もあるわけだが完璧な行政の仕方というのは存在しない)。では今後の日本という国の行政にその型が適しているのか否か。公務員の方の意見をお聞きしたい。