ハングリーであれ。分別くさくなるな。
ヒトは「分別」を身につけるのと引き換えに、「驚く能力」を曇らせていくのではないだろうか。
もちろん、分別を身につけることは、社会の一員になるために必須である。だからこそ、それが自分の「驚く能力」をマスクしていることを意識することが大切になる。まさに「分別くさく」なってはいけないのである。
本書から、Steve Jobsが卓越しているのは、この「驚く能力」であることが良くわかる。ゼロックスPARCを見学したとき、こっそりと作られたMacのプロトタイプを見たとき、CGのみによるアニメーションを目指すグループを知ったとき、その秘められた可能性にJobsが驚かなかったら、他の多くの見学者と同じ反応だったら、現在GUIも、Macも、Pixarも存在しなかったに違いない。
スタンフォード大学でのJobsのメッセージ "Stay hungry, Stay foolish."
当初インターネットで広く読まれた日本語訳は、「ハングリーであれ。馬鹿であれ」であった。
一方、本書の訳者、井口耕二氏は訳者あとがきで、「ハングリーであれ、分別くさくなるな」と訳している。これこそJobsの成し遂げてきたことをふまえたメッセージにふさわしいのではないだろうか。